研究概要 |
現在着実に実施されつつある司法制度改革の下で、裁判外紛争処理手続(ADR)は当事者による自主的紛争解決のための援助手続として積極的な意義づけを与えられてきている。今日の我が国の司法システムにおいて、ADRは理論的観点からしても、また実際上の必要性からしても不可欠の存在である。しかしながら、裁判とADRとの分業と協業をどのように理解すべきかについては、なお様々な対立が存在しているのが実情である。 このような状況下において、今後のADRの方向性を定めるためには、我が国において多種多様に制度化され運営されている裁判所外ADRについて、その主要なものを理論的観点から整理し、その公式の制度目的と実際上の社会的機能の両面に亘り、各手続を理論的分析枠組の中に統合的に位置づけることが必要であると考えられる。 そこで本研究は、ADRの運営と機能について、既存の報告や研究を基礎としながらも、更に近時のADR基本法の下で拡大しつつある新たなADRの動向をも含めてデータを蒐集・分析することにより、我が国のADRの現状と問題点を明らかにすることを目的として実施した。また、上記の目的を達成するために、市民に対するアンケート調査や、ADR手続実施者に対するインタビュー調査なども併せて行ってきた。 我が国のADRは、現在過渡期にあり,ADR基本法の下でのADRの拡大が我が国の司法システムの質的な多元化をもたらすか、それともADR全般のミニ裁判化をもたらすかは、なお今後の展開を待たざるをえない。しかしながら、いずれの道を歩むとしても、そのような政策決定は各種ADRの抱えている問題性とADR全体への市民の期待とを踏まえて構想されるべきである。本研究が、今後のADRの制度設計に寄与することができれば幸いである。
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