本研究において取りあげる先住民族の文化享有権及び知的財産権の保障という二つの問題は、日本における「先住権」の現実的・具体的実現という点で共通する課題であるだけでなく、その根底に民族のアイデンティティの保障があるという点で理論的にも共通しているところから、一体的に研究を進めてきた。 文化享有権の具体的保障については、北海道日高地方の平取町において進行している平取ダム建設工事に関して実施された周辺地域のアイヌ文化への影響調査及びミティゲーションの検討に関与することにより研究を行った。当該調査は、平成9年の二風谷ダム判決の中で札幌地裁がダム建設がアイヌ民族の文化享有権の侵害に当たりうると指摘したこと等を受けて実施されたものである。調査過程を詳細に検討した結果、文化享有権の保障として先住民族の文化を保全する場合には、当該民族の適切な参加が不可欠であること、また保全措置の検討にあたって、民族がイニシアティブを取ることが重要であるが、それを可能とする環境が整えられているとは必ずしもいえないこと等が明らかになった。 他方、知的財産権の保障については、CBDやWIPO等の国際機関による保障の動きを検討するとともに、アイヌ民族の伝統的文様などの保護のあり方を検討した。その結果、先住民族の知的財産の保護を欧米的な知的財産法の枠内で実施するには限界があること、また、アイヌ民族の知的財産を保障するにあたっては、民族を代表して権利を管理する仕組みを検討する必要があるが、いわゆる政治的自治権の場合と同様の困難があることなどが明らかになった。 これらに共通する問題は、これらの権利を集団的に行使するための仕組みが、民族の側において整備されているとはいえないことである。これらの問題については、平成19年度からの科学研究費による研究の中で検討を継続していく予定である。
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