研究概要 |
フランスにおける裁判権は,日本の司法権とは異なるひとつの<観念上の産物>であって,様々な裁判作用と観念される諸機関の活動が積算されたものにすぎないが,そうであるがゆえに,裁判権について考える際の自由度が高い。しかも,フランスでは,裁判官の組合活動が行われており,事の性質上,裁判官の職業的利益や政治問題に対する対応を社会に向かって訴えるものである。さかのぼれば,フランスの司法官の世界においては,激しい政治的介入が歴史的に続けられ,公然と司法上層部の政治的な任用が行われてきた。このような状況において,裁判官組合の存在は,そのようなあり方のパワー・バランスを取るものとして,重要な役割をはたしてきたものと思われる。このようなそれぞれに特徴をもった日仏の裁判権・司法権のあり方であるが,市民社会の側の要求の一般的増大,行政権の肥大化に対する反発,被害者の地位や救済に対穿る注目をはじめとする感受憐の変化,戦争時における犠牲など政治問題や社会問題に対する裁判権による解決への期待の増大等先進諸国に共通する諸課題への対応を迫られる中で,日仏両国の状況も変化しつつある。一方のフランスでは,グローバリゼーションの進展の中で,EUレベルをはじめとする一国を越える裁判官の相互協力関係の進展の中で,きわめて多様な社会的ニーズの受け皿としての機能を積極的に受け入れてきている。日本は,フランズをはじめとして様々な国のありかたに謙虚に学びながら,この国に根深い裁判の担い手についての<均質性のドグマ>,そしてそれを支える官僚統制を打破するために,豊かな個性と高いクオリティーを併せ持った裁判,そして法曹一般をどのように構想し,そして育成しているかが,問われ続けていかなければならない。
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