包括的所得概念の下で、所得は一定の期間における純資産の増加に消費を加えたものと定義され、純資産増加には資産価値の増加(未実現利益)が含まれる。資産価値とは、理論的にはその資産がもたらす将来のキャッシュ・フローの現在価値である。したがって、資産は将来キャッシュ・フローをもたらすもの一切として認識されるべきであり、無形資産は、人の潜在的価値(human capital)のような伝統的財産権に包摂されないものを把握するための概念として機能すべきである。無形資産の取得・形成も、将来キャッシュ・フローとして把握されるべきであり、その計算自体は単純である。 しかし、実際には将来キャッシュ・フローを把握することができないため、資産の範囲は定型的に限定されてきた。無形資産も、著作権等の法的に保護された財産権を核として構成されている。このような限定は、執行上の便宜としての実現主義に基づくものと捉えられる。問題となるのは、そのような「便宜」が必要となる範囲と程度である。この点の分析では、エージェンシー・コストの観点が有効である。無形資産を保有する企業や個人はその現在価値を知っているとしても、課税庁や裁判所がこれを客観的に検証できないことから、実現主義が採用されていると見ると、実現主義による包括的所得概念からの乖離は、国が課税ベースの算定を原則として納税者に委ねる申告納税制度におけるエージェンシー・コストと捉えられる。このコストを分析することにより、課税における無形資産の範囲を最適に画することができる。 組織再編成(M&A)は無形資産取得の最も重要な方法であるが、税制において適格として課税繰延が認められる範囲も、この観点から画すべきである。たとえば、金銭を対価とする合併等についても、法人段階での資産移転については課税繰延とされる場合を認めるべきである。その際、対価を株主に分配することを要件とすることが考えられる(内国歳入法典361条(b)(1)(A)参照)。
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