伝統的な行政法理輪は、行政法の基本原理として、(1)法律の法規創造力、(2)法律の優位、(3)法律の留保の3原則を維持してきた。しかし、これは明治憲法下の天皇主権(立憲君主制)には適合的な理論であって、国民主権の日本国憲法には相応しくない。むしろ日本国憲法の根底にある「法の支配」の原理に適合的な行政法原理及び理輪を創造する必要がある。そこで、本研究は英米法を淵源とする「法の支配」及びそのアメリカにおける発展形態であるデュー・プロセスの法理に着目し、その分析の中から普遍的行政法理論の示唆を得るとともに、日本国憲法に適合的な基礎理論の構築を目指したものである。 行政法の体系は、(1)行政組織法、(2)行政作用法(3)行政救済法からなるが、本研究の重点は(2)の行政作用法にある。そこでは国民代表議会の意思が国民の意思として政策に具体化され、行政権はこれを忠実に実現することが求められる。これが実体法的要請である。他方、主権者国民は単なる行政の客体ではなく、行政作用の局面において法規範が忠実に実現されるかを監視する権利を有する。これが手続的権利である。アメリカ法でもデュー・プロセス論は初期には実体的側面が注目されたが、現在では手続的側面に重点がおかれるようになった。本研究が着目したのはデュー・プロセスの根底にある価値論である。手続そのものからは、正確性、能率性、受容性の価値が引き出されるが、近時は、これに政府決定が個人の尊厳に関ることを強調して再構成する主張がある。
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