研究概要 |
公益団体訴訟は,1970年代から,消費者保護や環境保護の分野において,ヨーロッパを中心に順次導入され,労働,人権保護等,さまざまな分野に広がりを見せている。環境分野では,2001年10月に,(1)環境情報へのアクセス権,(2)環境に関する政策決定への参加権,(3)司法へのアクセス権という三つの権利を,NGOも含め,すべての市民に保障することを目的とする「オーフス条約」が発効し,団体訴訟の制度化に拍車がかかっている。最近では,アジア諸国(タイ,インドネシア等)でも,環境団体訴訟が法制化されている。 EUでは,市民参加指令が採択され,主な産業施設および公共施設の設置許可について団体訴訟の導入が義務づけられ,また,公的機関によるその他の作為・不作為についても,司法アクセス指令案により,広範な環境団体訴訟の導入がめざされている。これを受けて,従来,EU構成国の中で,団体訴訟に比較的消極的とされてきたドイツにおいても,環境省の環境問題専門家委員会(SRU)が,団体訴訟の対象を自然保護分野から環境領域全般へ拡大すべきであるとする意見書を公表し(2005年2月),同月には,意見書と同趣旨の環境・法的救済法案も公表された。 団体訴訟に違法行為の予防機能があることはしばしば指摘されているが,実務では,不当な行為の是正機能も重視されている。行政の裁量の範囲内の行為については司法的コントロールが及ばないから,行政決定の段階で,環境利益を適切に考慮させる必要があるのである。開発官庁に環境利益を適切に考慮させるためには団体訴訟の存在が不可欠であるとして,環境行政の担当者自身が団体訴訟の拡大を積極的に支持している。 これらの国際的動きと比較すると,日本は,団体訴訟に関する議論が最も遅れた国の一つとなっている。
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