本研究は競争法・政策と環境法・政策の間の抵触とその解決の方法を比較法的手法を用いて解明することを試みるものであるが、平成17年度においては、国際的な地域的統合体であるEC/EUにおける「環境と競争」の問題領域へのアプローチを行った。 欧州共同体設立条約(EC条約)は、第3条1項(1)項において「環境における政策」を共同体の活動の一つに位置づけ、また第6条において環境保護の要請が「持続可能な発展の促進」のために取り入れられなければならないとしている。さらに第174条以下の第19編において環境政策の具体的指針を定めている。一方、第81条及び第82条は、競争阻害行為及び支配的地位の濫用禁止を定めて独占禁止政策を実行することを明定している。 かかる法的基本枠組みの中で、政府が法的規制を緩和しながら、あるいは少なくとも強化を避けながら環境保護・環境保全政策を実現する切り札としてECにおいて(再)登場したのが、政府自らが正式の当事者となって産業界との間で結ばれる「環境協定」(Umweltvereinbarung ; Environmental Agreement)である。これに関し、欧州議会と欧州理事会は、環境と持続的発展に関する共同見解において、政策実施のための経済的な手段として、環境税の使用などとならんで、「競争法を尊重しながら環境目的を追求する自主的協定」に特に注目するとしている。欧州委員会は、環境協定は基本的に利点を多く有し、したがって歓迎されるべきものと評価している。とくに指令の実施のためには一方的自主義務負担は好ましくなく、「環境協定」が採用されるべきであるとの態度である。しかしながら、環境協定においても経済界は自ら一定の措置をとる義務を負うのであるから、政府機関が正式の当事者となっている点を除けば、それは本質的に一方的自主義務負担と異なるわけではない。欧州委員会は、指令の実施という目的の実現の確実性の程度の違いに着目して、環境協定を優先すべしとしているものと思われる。学説においては、環境協定に競争制限効果があるとしても、それがEC条約81条1項の禁止要件を充足するとすることへの疑問が提示され、さらに、81条3項による適用除外の可能性も検討されている。
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