本研究の結果、次のことが明らかになった。まず、1995年に成立したWTOにおいては、WTO協定、TBT協定、SPS協定、農業協定、補助金協定等において環境保護のための貿易制限を許容する規定がある。さらに、WTOの前身でありかつ現在もその中心部分を構成するガットは1947年の制定当初は貿易の自由化のみを目指しており、一般的例外についても環境を配慮した運用はなされてこなかった。しかし、1990年代末からパネルおよび上級委員会の態度に変化が見られ、現在はガット20条b号およびg号には環境のための貿易制限措置を許容する働きがある。 EC/EUにおいてカルテルを禁止するEC条約81条1項の例外が同条3項に定められているところ、欧州委員会の水平的協力協定ガイドライン(2001年)は、参加者が環境保護目的の実現の義務を負う協定は、原則として、競争法上、許容されるとしている。81条3項による適用除外がなされる可能性も示されている。同委員会はこの方針に沿った決定実務を行っている。欧州司法裁判所は経済敵利益と環境保護の優先順位が問題となる法益・利益衡量において環境保護に重きを置く判決を行ってきている。第一審裁判所はDSD事件判決において環境保護的競争制限が許される限界を示して81条1項(および82条)違反とした。欧州理事会は、環境保護政策の実行のためには競争をある程度犠牲にすることもやむを得ないとの立場である。 ドイツにおいて競争と環境の問題領域でとくに注目されたのは、DSDである。容器・包装廃棄物の回収、処理を行う事業者の組織、運営が必然的に競争制限を伴う場合について、連邦カルテルは黙認という実務的処理で対応した。学説からは事業者間協定用件不充足の理論、合理の原則の導入、保護に値しない競争の理論、衡量理論、内在理論などの多くの主張がなされた。結局、1994年の第6次、2005年のGWB第7次改正において立法的な解決がなされた。 イギリス競争法はEC競争法の原則とその実務的運用をそのまま引き継いでおり、ガイドラインも同じである。環境保護を目的とした国家援助補助金についても、ECにおけると同じである。
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