本年度は、ドイツ労働市場法改革の動向・内容について、ドイツでのシンポの議論等を踏まえて研究を進めるととともに、日本の労働市場法制に関しても検討を行った。 1 最近のドイツにおける労働市場法政策転換の状況について文献研究を進めた。具体的には、「ハルツ委員会報告」(2002年8月)に基づき、ハルツ四法律が相次いで制定され、また「アジェンダ2010」(連邦政府提案、2003年3月)によって解雇制限法の規制緩和等が断行された。これらの一連の法政策において特徴的なのは、以下の点である。第一に、失業手当金の減額、給付期間の短縮、紹介された職業を拒否した場合の制裁等を通じて、就労強制の程度が高められた。第二に、就労促進策が充実され、きめこまかな支援がなされることになった。第三に、雇用創出に向けて、従来厳しく規制されていた解雇制限法や労働者派遣法が大幅に緩和された。第四に、職業紹介機能を向上させるために大幅な機構改革がなされた。 さらに、日独及び独日両労働法協会主催のベルリンシンポ(「日本及びドイツにおける労働市場改革の展開」、2004年9月30日・10月1日)に参加したが、ここでの報告及び議論、さらに使用者団体、労働組合、連邦労働裁判所等でのインタービューも踏まえた論文をほぼ完成させた。 2 日本の労働市場法制についても研究を進め、その成果を、上記ベルリンシンポで報告した(「日本における雇用政策の展開と課題」。本報告は、ドイツの雑誌<Arbeit und Recht>に掲載予定)。ここでは、(1)外部労働市場と労働者個人を重視した雇用政策への転換、(2)雇用創出施策、(3)若年者に対する施策、(4)職業紹介事業の主体の多様化、(5)失業中の生活保障等について検討を行い、課題を提起した。 3 本年度は、計画通り、ドイツ労働市場法制改革の研究を進めることができた。さらに、計画にはなかったが、シンポでの報告を機会に、日本の労働市場法制についても、一定程度の研究を行うことができた。
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