1 昨年度から、ドイツ労働市場改革立法の動向に関する研究を進めてきたが、それが完成し、金沢法学に掲載した。そこでは、(1)ドイツ労働市場の現況、(2)伝統的規制システムとその批判、(3)90年代における法政策の展開を検討した上で、ハルツ第一次法〜第四次法の4つの法律、及び労働市場改革法を詳細に分析し、その意義、機能、問題点などを明らかにし、ドイツ労働市場法政策はどのように変容するかを検討した。 2 ドイツでの聞き取り調査では、上記労働市場改革立法施行後の動きなどについてインタービューを行った。そこで明らかになったのは以下の諸点である。(1)全般的な評価は分かれており、政府は「成功している」と見ているが、使用者団体は一致せず、労働組合は批判的である。(2)従来、失業者への金銭的援助としては、失業手当、失業扶助手当、そして公的扶助の3種があったが、重なり合う部分があったので、これを失業手当、失業手当II、そして公的扶助として整理統合したのには、おおむね評価されている。但し、従来よりも給付額が低下する層が少なくない点には、特に労働組合サイドから批判が加えられている。IAB(労働職業研究所は、失業者本人だけではなく、家族も含めた生活保障との観点から、分析する必要性があるとする。(3)IAB は、今回の改正は、流動化を促す点で評価している。(4)低賃金で就労を促すミニジョブは、失業者救済との立法目的を達成できず、むしろ主婦等の就労が増えて、「小遣い稼ぎ」となっている。(5)ドイツの労働市場は必ずしも「硬直的」ではなく、ダイナミックな動きがある。(6)新政府の労働市場政策は、従来と変わっていない。 3 日独の労働市場法を比較して得られる示唆は以下の通りである。(1)日本の労働市場政策は、中長期的は展望が欠けており、この点の是正が必要である。(2)ドイツの労働市場政策は日本に近づいているが、大きな相違点は、重要な点での規制強化がなされている点である。具体的には、パートタイマーや派遣労働者に対する均等待遇原則、有期雇用の制限などである。(3)日本での失業率は改善しつつあるが、これは、景気回復のみならず、こうした不安定雇用労働者の増加も一因であり、抜本的な労働市場の改善にはつながっていないと考えられる。(4)日本では、職業教育・訓練などを重視すべきであり、実習などを積極的に取り入れた「デュアル・システム」の日本版を検討すべきである。(5)若年者に対する雇用政策は緊急を要し、ドイツで実施されているのも参考にして、早急に実効性ある政策が講じられる必要がある。
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