1.初年度である本年は、基礎理論である刑罰論の現代的変容を取り上げた。夏季休業中にドイツ連邦共和国に資料および情報収集のために滞在し、レーゲンスブルク大学法学部において、イマニュエル・カントの法哲学ゼミナールに出席した。その後、フライブルク大学法学部において、量刑法の第一人者であるヴォルフガング・フリッシュ教授の下で在外研究を行った。ドイツにおいては、最近、応報刑論への回帰という現象が顕著である。一般予防論および特別予防論は、刑罰の本質ではなく、単独ではこれを正当化し得ない。また、従来日本で圧倒に通説的な地位を占めてきた消極的責任主義の問題点を検討した。 2.刑罰論の応用問題として、法人に対する制裁論の問題を取り扱った。プラグマティズム法学の一形態として、法人処罰はイギリス法およびアメリカ法においてはその正当性は当然のこととされてきたが、これと対極的な動きを示しているのが、ヨーロッパ法である。本年度の研究は、EU刑法、ドイツ語圏諸国およびフランスの刑法における法人処罰の最新の制度を検討した。この成果は、後述の「法務総合研究所研究部報告」で公表される。 3.他方、量刑事実論としては、犯罪行為後の態度として捜査協力的な態度を中心に研究を行った。これには、例えば、自首・自白、いわゆる王冠証人などの内部告発者が含まれ、このような場合に刑罰を軽減することの可否および軽減する場合の理由・要件を明らかにするという作業を通じて、量刑事実論の体系化を目指した。この成果は、後述の『筑波法政』掲載の論文で公表するほか、2005年6月18-19日開催の刑法学会(於:北海道大学)の個別報告で報告する。 4.なお、ドイツ量刑法の紹介として、いくつかの文献の翻訳を発表することも計画していたが、翻訳掲載先の問題で、今年度は公表できなかったが、翻訳作業自体には着手および継続しているので、次年度には単行本の形で公表することを考えている。
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