本年度は「ヨーロッパ民事訴訟法」の基礎理論の解明に重点を置き、EU内での法技術的なハーモナイゼイションの問題をこえて、比較法史学の成果を踏まえた労作を発表しているシュテュルナーの諸業績に焦点を合わせて検討を進めた。シュテュルナーは「アメリカおよびヨーロッパの手続観」という傑出した論稿において、訴訟形態史の観点から、欧米民事訴訟制度の構造を大局的に明らかにし、福祉国家思想の受容の程度、司法の自己管理思想の定着度、手続観の基礎にあるデモクラシー思想が訴訟構造に及ぼす影響を明らかにする。ひき続きシュテュルナーは、訴訟法学の継受のネットワークを描き出すことにより、訴訟法・訴訟文化の普遍性を強調する大作を発表する。ヨーロッパ民事訴訟法研究の構想をもっとも包括的に示したシンポジウム報告「ヨーロッパ民事訴訟への道」では、権利保護の等価性こそがヨーロッパ民事訴訟法の形成に不可欠であると指摘し、現在のEU構成国の民事手続法は主要な点で実質的に等価であると論証して、将来のヨーロッパ民事訴訟法学の基礎づけをこころみている。ヨーロッパ民事訴訟法学の構想およびドイツ比較民事訴訟法学の課題を確定してからのシュテュルナーの研究は、(1)ヨーロッパ民事訴訟法の構造の解明、(2)各論的テーマにおけるヨーロッパ共通訴訟法の探求(3)欧米(国際)民事訴訟法のハーモナイゼイションの可能性の分析に重点が置かれるようになる。本年度は(1)の領域のシュテュルナーの研究を検討・評価したが、来年度は(3)の分野のシュテュルナーの研究によりつつ、EUにおける民事訴訟法のハーモナイゼイションの基礎理論についてさらに分析を進めてゆきたい。
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