本研究は、従来は概念法学的な分析がなされてきた債務超過会社の組織再編について、実務の需要も踏まえながら、一段と実践的な理論の構築を目標とするものである。 会社法制の現代化により、会社法において、合併差損が生じる合併が可能であることが明らかにされた。これが、形式的な債務超過の会社を消滅会社とする合併を認めたものにとどまるのか、実質的な債務超過の会社の合併をも積極的に認めたものなのかは、必ずしも一義的ではない。 今なお、形式的な論理を追いかける傾向が強いが、カナダでの更なる調査ヒアリングも踏まえつつ、また、誰の利益が守られるべきなのかを実質的に検討するように心がけた。シンガポールにおいては、昨年の会社法改正が行われ、イギリス法の枠組みから踏み出し、合併という手法を導入した。カナダを含むイギリス法系の諸国においては、債権者保護が重視されてきたが、シンガポール会社法においては、支払不能とならないことにつき合併を提案する取締役に宣言させる(solvency statement)という形をとるようになった(会社法215C条)。 わが国においても、利害関係人の利益が適正に守られる限り、債務超過会社の合併を否定する根拠は少ない。株主が不利益を被るとすれば、合併による相乗効果が期待できないにもかかわらず、債務超過会社を合併によって受け入れることであろうが、株式買取請求権でも、一応の手続的な保護はなされている。さらに、取締役の責任を最終的な担保にすれば十分であろう。その意味で、形式的にのみ債務超過なのか、資産の評価替えやのれんの計上を行った実質的な意味でも債務超過なのか、両者を区別して議論する意味は大きくない。 以上のような研究成果については、別冊の金融・商事判例に提出した論文にも盛り込んだが、刊行が遅れており、そのほかには、見るべき論稿を公表するには至っていない。
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