本研究は起業社会に対応した中小企業法制を特に会計政策の視点から分析し、各年度ごとに以下のような成果を得ることができた。 (1)平成16度 主として、わが国の中小企業政策および会計政策についての調査・検討を行った。そこでは、中小企業会計基準の普及について、金融庁が行っているリレーションシップバンキング施策がその成否に大きな影響を有していることが理解できた。さらに、会社法の現代化作業に伴い、2005年度会社法の制定により、新たに会計参与という機関の新設が認められることとなった。したがって、中小企業に会計参与が設置された場合には、計算書類の作成についてこれまで以上の信頼性が要求されることになり、その核として中小企業会計基準がより精査されることとなり、中小企業にふさわしい会計基準がより高い精度で完成されることが期待されることが理解できた。 (2)平成17年度 平成16年度に得られた成果をもとに、平成17年度は英国の制度との比較検討を行った。 さらに、平成17年には会社法の成立があり、会計参与の制度が導入されたほか、中小企業に関する会計基準の統一化、さらにはリレーションシップバンキングのさらなる強化がなされた。これらの制度は英国において既に実現されている制度とかなり近似のものであることが認められた。すなわち、会社法の改正にあっては、閉鎖的な小規模会社を起点にして制度設計していること、中小企業向けの会計基準を整備していることが特に該当する。 (3)平成18年度 中小企業会計基準の公表ならびに会計参与制度の導入は、本研究開始時点では想定されていなかったことであり、むしろ英国法の検討を踏まえての立法論を展開する予定であった。ところがわが国の制度がいち早く動き出したことから、中小企業に適合した会計制度はどうあるべきかについて実務的な検討を広く行った。加えて、また前年度の調査で得られた英国のカンパニーハウスにおける情報の一元管理のあり方が、わが国の会社情報開示の制度を検討するに当たって示唆に富むことが理解できた。
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