本研究は、銀行のコーポレート・ガバナンス、中でも株主利益最大化原則と預金者保護という二つの目的の調整に関する問題を主な研究対象とする。研究終了年度に当たる本年度は、次のような研究を行った。 本年度は、預金者の法的地位を4つの側面から考察するとともに、株主と預金者との利害が先鋭に対立する中で、両者の利害をどのような理論によって調整すべきかについて考察した。預金者の法的地位としては、(1)債権者としての地位、(2)金融監督法による保護の対象としての地位、(3)ステークホルダーとしての地位、(4)市場規律の担い手としての地位、の4つがある。(1)は民法の立場から考察したものであるが、非常に弱い地位にとどまる。銀行取締役は、預金という金銭の価値の保管に際して、預金者に対して善管注意義務を負うことを提言した。(2)は、銀行法を題材として考察した。銀行法が銀行経営の健全性について言及している場合、預金者保護を含意していることを明らかにするとともに、銀行が不良債権の償却と引当てとを適正に実施するために、自己査定の結果と金融検査による資産査定の結果との乖離が著しい場合に、何らかのサンクションを用意すべきことを提言した。(3)は、商法を題材として考察した。銀行株式会社における企業価値の最大化とは、資産内容の健全化による債権者価値の最大化であることを明らかにし、株主価値最大化にいう株主価値が、株主の中・長期的利益であることを強調することによって、株主と預金者の利害調整を図ることを提言した。そして、株主利益最大化と預金者保護という2つの目的を実現するために、「銀行経営の健全性」維持の概念を位置付けるべきであることを提言した。(4)は、情報開示の観点から考察した。預金者の立場から、融資業務にかかる「クレジット・ポリシー」または、「信用リスク管理のための規定」の要旨を開示させることを提言した。
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