本研究は、銀行のコーポレート・ガバナンス、中でも銀行株式会社における株主利益最大化原則と預金者保護という二つの目的の調整に関する問題を主な研究対象とする。 平成16年度には、本研究の序論として位置付けられる部分の研究を行った。すなわち、銀行が株式会社であることを求められるに至った経緯と、銀行法において株主権がどのように扱われているのかについて研究するとともに、整理回収機構が遂行している破綻金融機関の役員に対する責任追及訴訟および株主代表訴訟に関する判例を対象として、銀行取締役の負う善管注意義務の内容に関する分析などの研究を行った。平成17年度には、預金者の法的地位について、(1)債権者としての地位、(2)金融監督法による保護の対象としての地位、(3)ステークホルダーとしての地位、(4)市場規律の担い手としての地位、の4つの側面から研究を行った。得られた主な研究成果は、以下のとおりである。 1.銀行が株式会社であることを求められるのは、株主利益最大化を目的とするものではなく、経営の健全化を実現するためである。2.判例においては、銀行取締役の注意義務には、預金者保護の要請と経営の健全性維持の要請とが反映されている。3.銀行株式会社における企業価値の最大化とは、資産内容の健全化による債権者価値の最大化である。4.株主利益最大化原則における株主の利益が株主の中・長期的利益であることを強調することによって、株主と預金者の利害調整を図るべきである。5.株主利益最大化と預金者保護という2つの目的を実現するための結節点となるべき概念として、「銀行経営の健全性」維持の概念を位置付けるべきである。6.預金者の立場からは、融資業務にかかる「クレジット・ポリシー」の要旨を銀行に開示させるべきである。
|