研究課題
基盤研究(C)
1 履行障害法については様々問題がある。とりわけ瑕疵ある目的物が給付された場合の買主の救済について中国合同法、韓国民法および改正案、さらには台湾民法といった東アジアの民法を比較検討した。具体的には、追完請求権の要件、解除権、代金減額権、損害賠償請求権、権利行使期間制限の5点に分けて、比較法的考察をおこなった。2 とくに関心を持って考察したのが、追完請求権と代金減額権との関係についてである。ドイツ新民法では、追完請求権の優越性が規定されている。すなわち、買主は、まず追完請求権を行使しなければ、代金減額権を行使できないのである。3 しかし、瑕疵ある商品の給付により、買主の売主に対する信頼感は揺らいでいる。そうだとすれば、買主は、直ちに代金減額権を行使することが許されるべきではないか。つまり、追完請求権と代金減額権とは同列の(買主の)救済策と考えるべきではないか。中国契約法、韓国現行法・改正案はこの立場である。私はこの立場を支持したい。これに即して日本民法の改正を考えるべきだろう。私の調査の限りでは、この点について、台湾の通説の立場は不明である。4 残された問題として、とりわけ重要なのは、ドイツ債務法現代化法のように消費者売買の特則を民法の売買の中に規定するか(ひいては消費者保護規定を民法に取り込むか)、それとも民法外の単行法に定めるかという問題である。現代においては、市民生活の基本法典としての民法は市民にとってわかりやすく、なじみやすいものであるべきだという立場をとるならば、民法典の中に消費者保護規定を取り込むという選択肢が考えられよう。しかし、民法典全体の見通しがいいこと、条数が多くならないことも重要な視点である。そうだとすると、消費者保護規定の何をどこまで民法に取り入れるかは慎重に検討されるべきである。また、民法典に消費者保護規定を取り込むならば、中国合同法や台湾民法のように、民商統一法の可能性も検討に値しよう。さらに、瑕疵ある目的物の給付は不完全履行といえるが、これを債務不履行の一類型として規定するのか、あるいはドイツ債務法現代化法のように売買の特則として規定するのかも、検討すべき課題である。
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取引法の変容と新たな展開 川井健先生傘寿記念論文集 ((日本評論社、2007年8月刊行予定)所収)
Included in : Essays in celebration of Professor Takeshi KAWAFs 80^<th>-Birthday, Nihonhyoronsha (scheduled)