本研究においては、会社法(平成17年制定)の審議過程において提示された、最低資本金制の廃止、剰余金分配制度の創設などの、株式会社の資本制度及び資本概念に係る改正提案について、それと従来の商法典が採用してきた諸制度との整合性の有無などが総合的に考察され、基本的立場(資本維持原則)には大きな変更はないものの、その基盤をなす資本制度の後退とそのことの意義・問題点を明らかにし、その結果、資本維持原則の不徹底や会社法諸制度間にアンバランスが生じるおそれがある状況となっていることを示した。また最低資本金制度の廃止提案は、創業を促進する特例法の一般化・恒久化を企図するものと解されるが、同制度は日本法においてはむしろ小規模有限責任会社法として構想された有限会社法を嚆矢とするのであり、廃止提案は有限責任の対価という問題を正面から問う問題提起でもあることを明らかにした。そして、1円株式会社の許容は資本維持原則の基礎金額を1円とすることの許容でもあることからすれば、会社財産の充実という政策目標を達成する手段としての資本維持という手法の法政策的意義を著しく減殺させるものであり、今、資本維持という法政策、またその基礎にある資本制度それ自体を改めて問う現代的意義(伝統的な商法では当然のこととされていたようである)を確認した。このような視点からは、資本維持の補強政策としての法定準備金制度も問題視され、特に平成13年6月改正を顕著な例として、その制度内容が大きく変容していることから(もう一つ大きな変容である資本準備金制度による法定準備金制度の変化とその後の変容については既発表論文参照)、貸借対照表上の「純資産の部」(旧「資本の部」)を細分化することの法的意義を改めて問う契機を提供していると解される。ただ、この点は本研究では十分解明できなかったことから、将来の課題として残されている。
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