船荷証券の債権的効力に関して、わが国の学説は、いわゆる不実記載責任に関する国際海上物品運送法9条の対象となる記載をとくに限定せず、その結果、記載が事実と異なることの主張に該当しうるときは運送人はその主張を認められないことになる。しかし、船荷証券の記載の効力は、その記載の性質により自ずから限界があるものと思われ、画一的な取り扱いでは不都合が生じかねない(特に、決定的証拠力が認められる対象が限定された統一条約との齟齬が生じかねない)。そこで、本研究では、特にフランスの裁判例を分析することにより、不知約款・不実記載責任が問題となる範囲と限界を具体的に検証することとした。フランスの裁判例は、1807年の商法典から、フランスによる条約摂取まで(特に20世紀初頭から1936年まで)の裁判例を収集し、分析することに務めた。関心の中心、運送品の種類に関する記載およびこれに対する不知約款が、どのような効力を有していたのか、また、その理由はどのように理解されていたのかの解明にある。さらに、フランス判例の分析とあわせて、近時現れた日本判例の研究も進めてきた。対象としているのは、コンテナ貨物の船荷証券に付された不知約款の効力に関する事例、および、船積み前に損害が生じた貨物に対して外観良好なる無留保船荷証券が発行された事例の2つである。前者については、船荷証券になされたコンテナ中品の記載が運送人を拘束するか否かについて、後者については、外観良好なる記載が損害発生時期を立証しようとする運送人を拘束するか否かについて、従来の考え方では妥当な結論を得ることができないと考えるに至った。前述のように、船荷証券の各記載の性質に応じたその効力を考えることにより、法9条の対象となる記載およびその結果が限界づけられるものと思われ、できるだけ早い時期に研究成果をとりまとめていきたいと考えている。
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