この研究は、家事審判事件のうち、研究の蓄積の少ない甲類審判事件(家事審判法9条第1項甲類に掲げられた事件、および他の法律によって甲類とみなされた事件をいう)について、その審理過程上の諸問題を理論的に解明することを目的としている。甲類事件については、紛争性が希薄だといわれ、また裁判所の職権性の強さから、審理に際して、関係人の手続上の地位、申立人の申立てに対する拘束性、あるいはその裁判に対する不服申立てのあり方などの基本的な問題が、実務による解決に委ねられていたといえる。しかしながら、単に具体的事件に対応して処理するだけでなく、非訟事件手続の原則にたち返って問い直すことが必要になっている。 その成果の一端は、別途報告書に示したとおりである。 とりわけ、(1)家事審判手続における当事者適格・参加について、非訟事件の原則から関係人の概念を見直すことによって、この概念が不要になること、これに関する民事訴訟法の準用を説く通説には問題があることを指摘した。(2)家事審判における不服申立てに関する定めには問題が多く、とりわけ重要な事項が規則によって定められ、どのような裁判に対して誰に不服申立てが許されるかが明らかでないという問題があり、さらに、規則に定められた場合以外には不服申立を認めない判例や、これを支持する通説には、家事審判が関係人の権利を侵害する場合だけでなく、正当な利益が害される場合、あるいは被後見人等の権利を擁護するべき立場にある者に対して、事件本人のために抗告権が認められるとするという観点が欠けているがゆえに問題があることを指摘した。 これらの研究の途上で、ドイツ連邦共和国連邦司法省が、非訟事件手続法の改正案を公表したことは、本研究の進展にとっても大きな意味があったので、その仮訳にも取り組んだ。
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