芸能人らが、その氏名や肖像等を商品化事業や宣伝広告事業に無断利用する者に対して異議を申し立てることのできる法的地位は、昭和50年代以降、裁判実務上認知されるようになり、「パブリシティの権利」と呼ばれている。しかし、「パブリシティの権利」の法的性質について、人格権として把握するのか、それとも財産権として把握するのか議論の対立があり、また、権利の外延も必ずしも明確とはなっていない。 人の氏名や肖像と同じく宣伝広告シンボルの法的保護を図る法領域としては、不正競争防止法2条1項1号や同2号、及び商標法などから構成される標識法が存在する。本研究においては、パブリシティの権利の外延を明確化し、「パブリシティの権利」も含む宣伝広告シンボルのより統一的な保護のあり方を模索するために、パブリシティの権利と標識法との交錯領域についての研究を行った。具体的には、パブリシティの権利そのものに関する検討に加え、標識法での保護の外延や保護要件につき、比較法も踏まえて詳細に研究し、また、インターネットという新たな情報空間でのパブリシティや標識の保護のあり方についても検討すべく、プロバイダの責任も検討対象とした。 標識法は、狭義の出所表示の混同的使用を禁止する制度から出発したが、今日では、商品化事業に用いられるシンボルマークにまで保護対象が拡大され、また、混同の有無にかかわらず、著名表示をダイリューション等から保護する制度が導入されている。標識法の保護領域拡大の歴史をみると、標識の保護の外延が過度に広いものとなって情報の自由利用や営業の自由が害されることがないよう配慮がなされてきたことが研究を通じて明らかとなった。そして、「パブリシティの権利」の人格権的構成は、標識法の考え方とかけ離れたものではなく、共通の基礎を有するものであって、人の氏名肖像と一般の出所表示との相違を踏まえつつ、標識法を参照することがパブリシティの権利の外延を明らかにするために有益であることが示された。
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