研究概要 |
昨年度に引き続き,精神科医療・終末期医療・子どもの医療における家族による代行決定に関する日米の判例・学説を調査・収集した。アメリカ法については,東京大学大学院法学政治学研究科付属外国法文献センターにおいてさらに詳細な調査・収集を行った。 日本の精神科医療においては,法制上,家族の役割が過剰であると評価される。1980年代後半からの何回かにわたる法改正によって一定の改善は見られるものの,依然として問題は解決に向かっていない。「保護者」制度の根本的な見直しを検討する必要があろう。アメリカの判例では,精神科医療における家族の積極的役割に対して懐疑的な傾向が強い。しかし,そうでもない判例も見受けられ,現在詳細な分析を続けているところである。 子どもの医療における家族の役割については,日米ともそれほど明確な法理が形成されているとはいえない。特に日本では,親権の枠組みで処理され,未成年者の年齢・判断能力に応じた代行決定のあり方について,いまだ十分な検討が行われているとはいえない。 終末期医療については,安楽死・尊厳死をめぐる日本法・アメリカ法の現状と課題を精査している。その他,昨年度に引き続き,ホスピスケアに携わる医療関係者を対象として,終末期医療という極限状況の中で,患者の医療決定がいかになされ,家族はどのような役割を果たしているのか,医療従事者はそれをどのように受け止めているのかについて調査を行った。昨年訪問したホスピスは中規模都市の郊外に位置し,患者・家族関係の密度が濃く,自己決定を重視する患者は比較的少ないとの結果が得られた。本年度調査した医療機関は大都市に位置しており,相当異なる様相を見てとることができた。
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