平成16年度においては、個人の認識と行動の分析に関わる社会科学各分野及び自然科学の分野における基本文献を読み込み、実証研究に応用できる発展の方向を探ることが主要な目的とされていた。この点に関しては、いまだまとまった形での整理はできていないが、一方で今後の研究に生かしうる様々な発見があった。特に、研究の出発点が個人が行動する根拠となる認識の形成にあっため、認知心理学及び神経学・脳科学の分野の文献における収穫が多かった。認識の問題は長く哲学のテーマであったたが、その含意の可否について脳科学が脳の働き-特に身体の状態と脳の変化-の観点から再検証を行っている点は興味深かった。犯罪心理学の分野においては、個人の認識に影響を及ぼし行動を変えることができるといった実例が興味深かった。特に、情報の操作、遮断により一旦特定の認識体系が形成されてしまうと、それ以上の働きかけがなくても、個人は特定の行動様式をとるようになるといった点は今後の研究の端緒となると思われる。すなわち、認識へ他からの強い影響を受けてしまうと、個人はあたかも自律的に行動しているように見えながらも、その特定の認識体系を形成した他者の意図通りに動き、犯罪行為をも正当化する。通常の権力行使の場合には観察しにくい現象を抽出する点において収穫があった。 このような個人の認識の行動に対する影響の重要性に鑑ま、実証研究の分野では行為者が全く異なる前提に基づいて行動するという分析枠組を考えてみた。具体的には政治家の行動前提として、再選(或いは政権)追求と政策(実現)追求の二つは別々のモデルとして区別されるが、同一のモデルで別々の政党や集団の所属者がそれぞれ異なる目的をもち行動するというモデルを考え分析を試みた。これは7月のアイルランドのダブリンで行われた研究会で発表された。
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