本年度は前年度からの、社会科学及び自然科学他分野の、認知や行動に関する文献を読む作業を進めるとともに、国会議員の政党間の移動行動に関する論文を完成させた。従来、政治学の連合理論においては、政策追求及び政権追求モデルに見られるように、議員は同一の目的-すなわち政策か政権のいずれか-を持ち、同一の状況認識-すなわちどの政党が最も有利かに関する認識-を持つとしてきた前提を覆し、議員の選挙基盤や政策に関する立場によって、これらの目的や認識が異なってくるとの前提にたったことである。議員は、敗北連合を勝利連合に変え、或いは、勝利連合を敗北連合に変えることを予測して、政党間の移動を決定するが、その際の勝利連合の閾値は従来の研究では、過半数であると考えられたが、本研究では、制度の制約から、過半数と共存するもう一つの閾値が存在するとの前提に立って分析を行った。政党間の交渉力のもう一つの指標を設定したのである。この結果、考えられる議員の移動がより複雑化し、政党の規模すなわち勝利連合の形成とともに、政策的立場も考慮しながら、議員の政党移動行動を分析することが可能になった。こうした理論的含意を持ちながらも、本論文は一方で1993年以降の日本の政党の合従連衡という個別的事例についても、第一党である自民党への挑戦が、なぜ議席数の多かった新進党においてより、議席数が少なくしかも所属議員の政策的立場の多様性が存在する民主党において、より効果的に継続したかという疑問に対する答えを提供している。
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