今年度は、比較政治学、およびアフリカ地域研究における近年の「民主化」研究の潮流を把握する作業を行うため、多くの文献調査を実施した。その結果、近年のアフリカを中心とした「民主化」の再考の作業の中では、「民主化」を経て形成された政治体制を、それだけ民主主義体制と判断する考え方に関しては一定の留保を伴わざるを得ないという議論が多く見受けられること、さらにこの問題については、制度・構造両面から検討を加えるほかに、アフリカにおける「国家形成」という課題との連関で検討する必要性に言及する研究が存在することが明らかになった。こうした問題を、より実証的に検討する作業として、南アフリカの事例とザンビアの事例を中心に一定の検討を加えた。南アフリカに関しては2004年4月の選挙過程を検討し、アパルヘイト後の南アフリカの政治現象の特徴のひとつであった「政治暴力」が政治の前面から後退するという、新たな政治実践が見られることを観察し、その要因を検討する仮説設定を行った。その成果の一部は、2004年度日本政治学会で報告した。また、ザンビアの事例に関しては、日本貿易振興会アジア経済研究所との共同研究の中で精査する機会があった。ザンビアの事例は、「民主化」以前の制度的残滓が、「民主化」後のミクロの政治実践を規定している面が強く、今後の「民主化」研究においては、単に選挙や政党制といった制度変更にとどまらない検討の必要性を明らかにする事例研究を展開することに成功した。
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