本研究の目的は、近代イギリスにおける政党概念の生成と変容を政治思想史的に考察することである。この目的を遂行するために、まず関係図書の購入や大学図書館での文献調査、Eighteenth Century Collections Onlineからの古典資料の収集などを行った。 以上の準備を経たうえで、平成17年度は、18世紀の初期から中葉にかけての思想家や政治家たちに政党がどのようにとらえられ、それがいかなる概念変容を遂げたかを考察した。まず、ボリングブルック子爵のパンフレットを取り上げ、彼の政党論と政治思想を主としてカントリ思想との関わりにおいて分析した。次いで、エドワード・スペルマンのパンフレットから彼の政党概念を析出して、政治的自由との関連で反対党の存在意義について検討した。研究代表者がとくに重視したのは、これまでまったく研究対象とされてこなかったチャタム伯ウィリアム・ピットの政党論である。The Parliamentary History of EnglandとJournals of the House of Commonsにおける彼の議会演説、および未公刊の書簡や私文書を政治史的文脈の中でコンテクスト主義的方法論を援用しつつ詳細に分析した。とりわけ、ジャコバイトの反乱や7年戦争などとの関わりの中で発せられたピットのさまざまな政治的言説から政党に関する思想と理念を抽出し、その愛国主義的な政党概念をボリングブルックのそれとも比較しながら考察した。以上の考察の結果、この時期に政党の概念変容が起こり、効用、均衡、秩序などの観点からとらえられるに至ったことが明らかとなった。
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