研究概要 |
平成18年度は、18世紀中葉から末葉にかけてのイギリスの思想家や政治家たちに政党がどのようにイメージされ、いかなる価値を有するものとして捉えられたか、また先行する時代と比較してそれがどのような概念変容を遂げたかを考察した。まず、昨年度に引き続いてチャタム伯ウィリアム・ピットを取り上げ、ウイッグとトーリのみならず、コートとカントリという党派概念が混在したウォルポール時代におけるピットの愛国主義的な政党観や政治観を、政治史的文脈の中でコンテクスト主義的方法を用いて考察した。その成果は、学術誌に論文として発表した。 次いで取り上げたのは、ピットと同じくウイッグ党に属しながらも、しばしば政治的立場を異にしたロッキンガム派ウイッグの思想家ないし政治家、とくにエドマンド・バークである。テクストとしては、彼の政党論を明らかにする上に最も重要なパンフレットであるObservations on a Late Publication, intituled The Present State of the Nation, 1769とThoughts on the Cause of the Present Discontents, 1770である。それらを、アメリカ植民地政策やウィルクス事件などの政治史的諸問題と関わらせながら分析し、彼の政党概念を政治思想史のパースペクティヴの中で考察した。その結果、バークにおいて政党の概念は大きく変容したこと、すなわち、ボリングブルックやピット、またヒュームたちの消極的な捉え方とは異なって、政治的効用という観点のみならず人間本性をめぐる倫理的観点からも不可欠なものとして捉えられたこと、そしてそれは政党政治や二党制もしくは多党制といった主張を含み、近代政党論の先駆けとなるものであったことが明らかとなった。
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