本研究は、戦後ドイツにおける連邦制の成立過程について、垂直的・水平的政治関係の構造的制度化という視点から明らかにするものである。この課題に迫るためには、(1)財政連邦制の構築、(2)代表連邦制の形成、(3)占領統治システムと州政治の形成、(4)政党および政治エリートの連邦制構想、(5)占領政府の関与、といった諸問題を究明しなければならない。 (1)および(5)についてはすでに平成17年度前に論文を発表しているが、(2)に関しては、平成17年6月に「戦後ドイツにおける連邦参議院の成立」という論文を公刊した。 これは、戦後連邦制の経路依存性という観点からフランクフルト憲法、第二帝制、ワイマール共和制に見られる連邦制と連邦代表制を概観した後、戦後基本法制定期の政党(社会民主党、キリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟、自由民主党)の連邦制論と第二院制論を明らかにすることによって、連邦制をめぐる対抗的選択肢を分析した。これを通じて、連邦参議院という独自の連邦代表制が形成されるに至った理由を、歴史的状況、戦後時代状況、そして官僚制・政党論との関わりで解明した。 平成17年度には、こうした論文作成に続いて、(4)の研究課題にも取り組んだ。とくに基本法の制定審議の場であった議会評議会の議長を務めたアデナウアーの連邦制論と民主主義論がいかなるものであったかをその書簡集や演説集などに基づいて明らかにした。それと同時に、同時代の政治家やジャーナリストなどによる戦後ドイツ憲法構想や連邦制論に関しても資料集を用いて追究した。 こうした検討の結果、一部の政党・政治家を除いて連邦制の構築に関してはほぼ合意があったこと、しかもそうしたドイツの連邦制的国家再建はヨーロッパ連邦の一員になる上で望ましいとの認識でも一致していたこと、ただし構築さるべき連邦制の内実をめぐっては見解が異なったことが明らかになった。今後は、社会民主党党首シューマッハーやアメリカ占領軍政長官クレイの国家構想論・連邦制論の検討に進みたいと考えている。
|