本年度はポピュリズムの概念を整理、再検討した。この過程で改めて、ポピュリズム概念の多様性、多義性に驚かされた。ポピュリズムはラテン・アメリカ研究においてはペロニズムに代表される大衆(とくに労働者層)迎合的な支持動員型体制を、近年の西ヨーロッパ政治においては外国人排斥とEU統合反対を掲げる極右的なナショナリスト勢力を、さらにアメリカ合衆国では公民権運動に代表される直接民主政治への志向を表すものとして用いられてきている。いずれの場合も、自らをピープルの代表として表現することから、ポピュリズムと呼ばれるのであるが、善悪二元論による政治のドラマ化、モラリズム化という共通項はあるものの、日本で近年小泉政治に対して用いられるポピュリズム政治という名称にこれらのポピュリズム概念を適用することは妥当ではない。にもかかわらず、小泉政治がポピュリズムと呼ばれるのは、前述の善悪二元論的モラリズム的対決、それによるドラマ化(「劇場政治」)という特徴を共有しているからである。 小泉政治は、アメリカの都市マシーン政治に対する「改革」運動と共通性をもつ。しかも、プロフェショナリズムではなく、「小さい政府」、ネオ・リベラリズムを改革の内容としてもつ。そこで、小泉政治をネオ・リベラル型ポピュリズムと名づけた。 この点を具体的に確認するために、今年度は、2006年9月の総選挙を素材に検討を行った。郵政民営化を唯一の争点として、これに反対する勢力を「抵抗勢力」と悪玉のレッテルを貼り、魅力的な対立候補を政治の外からリクルートしたその手法は、文字通り、ポピュリスト戦略と呼びうるものであった。
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