1980年代以降の日独両国テレコム規制緩和を、2つの対極的モデルとして捉えられうる。ドイツでは、1989年以降3段階による漸進的規制緩和が展開されたのに対して、日本では、1985年に大規模な一括的改革を行った後、補完的な施策を幾つか展開した、と解釈してきた。そして2003年から04年にかけて、両国では、今一度大きな法改正が実施され、上記の通りミニマム水準のテレコム規制に到達したと言えるだろう。 日独両国のテレコム規制では、国民経済にマイナスとなるような規制、例えば少なくともネットワーク規制、サーヴィス規制、料金規制、以上3分野では、ほぼ完全に撤廃され、他方国民経済にプラスとなる規制、例えば接続ルールとユニヴァーサルサーヴィス規制は、むしろ強化されている、と解釈できるだろう。テレコムという一つの産業分野で、規制緩和と規制強化が並行して生じる理由の一つは、テレコムサーヴィスの必需性と普遍性に求められよう。純粋な民間財としての性格と、公共財的性格とを併せ持つ点に、どうしても規制を加えねばならない理由がある。この意味において、日独テレコム規制が2004年の時点で到達した段階を、必要最小限のミニマム規制と捉えることが可能であろう。これは、緩和すべき規制が殆ど撤廃され、他方設定されるべき規制の基盤が確立されたと判断されるからである。 今後の論点としては、両国共通の側面では、接続ルールとそれに基づく相互接続、及びユニヴァーサルサーヴィス、それぞれが今後どのように展開し、それに応じて規制をどのように変更していくか、ということである。規制緩和と規制強化は、規制対象となる財・サーヴィスの性格に応じて、その展開が異なるといえる。この意味で、テレコム市場は、例え現時点で規制がミニマム水準に到達していたとしても、今後も注目に値する政策対象分野の一つと呼ぶべきであろう。
|