1年目は、EU主要諸国の入国管理/移民政策の新たな動向を示唆する最近の文献を集中的に入手し、その検討に作業の大半を費やした。当初、入国管理の専門家へのインタビューも一部予定していたが、健康上の理由で次年度以降に回した。インタビュー候補者の一人であるP・ヴェィユ(CNRS、フランス)が日本を訪問したので、この機会を利用して入国管理政策の変化について意見を交換した。研究サーベイの結果得られた知見は、以下のとおりである。(1)IT技術者等の受け入れに見られるように、従来の完全締め出しから選択的受け入れへの傾向が認められる。(2)定住移民については多文化主義的な政策から統合政策への転換を示す国が多く、政策の「保守化亅の傾向が顕著となっている。(3)EU統合による拡大の一方で、非正規の入国者への厳しい入国制限が認められる。それに伴って、モロッコ等の北アフリカ諸国からの非合法移民が多く、移動に伴う悲劇も多い。(4)EUの25カ国への拡大(いわゆる東方拡大)は、人の自由な国際移動を伴っていないケースが多く、入国管理という点で大きな変化は認められないが、企業や資金の移動に伴って、今後の変化が注目される。(5)同じ民族的出自の外国人の受け入れが、スペイン、ドイツ等で続いている。特に同じスペイン語圏に属する南米諸国からのスペイン等への帰還が認められる。(6)EUに加盟した25カ国のさらに東方に位置する国々を中心にして、周辺の発展途上諸国からのスマグラーと呼ばれる仲介者を利用しての非合法な入国が続いており、こうしたスマグリングに必要とされる費用も高騰している。(7)規制緩和の進んだ国(イギリス等)と社会民主主義的規制の強い国(北欧諸国等)との差がめだち、規制緩和は人の移動を促進し、安価な価格の外国人労働力市場を作り出している。こうした知見を基礎にして、次年度以降の本格的な研究に進む予定である。
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