本研究は、紛争後平和構築の事例の比較研究を通して、平和構築の成否を分ける要因を抽出することにあった。3年の研究期間内に、現地調査を踏まえつつ、平和構築の難題に直面しているボスニア・ヘルツェゴヴィナ、アフガニスタン、イラクの事例、そして比較的、安定して成功している考えられるカンボジア、東ティモールの事例を中心に、平和構築の現状の比較分析を行った。成功と失敗を分ける主要な要因には、武力紛争の性質にあると考えられる。権力の争奪の内戦、すなわち統治紛争の場合、カンボジア東ティモールの事例にみられるように、民主制度が定着しやすい。他方、分離独立をめぐる領域紛争の場合、紛争後がいがみ合うエスニック対立の構造は温存されているために、自由主義的で民主的な政治制度は定着しない。体制崩壊後に、自由選挙、市場経済の導入は紛争原因になるだけに、時間と注意を要する。イラクのように、独裁体制を武力によって崩壊させた場合、そのあとにエスニック政治が台頭するために、平和構築は至難を極める。民主化移行は、多民族国家の場合は、特に注意を要する。
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