研究概要 |
16年度はシリア・ゴラン高原におけるPKO、UNDOFに参加している自衛隊の実態について調査を行った。事前に防衛大学校や陸上自衛隊研究本部の関係者、元自衛官幹部らとのヒアリングや情報収集を行ったうえで、9月17目から9月30日までUNDOFのシリア側、イスラエル側駐屯地で現地調査を行った。 自衛隊によるPKOへの参加は「平和構築」,という観点から分析できるが、その観点からゴラン高原他、これまでのPKO派遣の経緯、実態をみていくと以下の点が明らかになった。 (1)国連を中心にした多国間協調に基づき国際社会の公益に資するための自衛隊派遣と、日米同盟に基づき同盟国と日本の国益に資するための自衛隊派遣、という二種類があり、両者の区別が曖昧なまま自衛隊の海外派遣が進められている。 (2)PKOなどで現地で活動している自衛隊は、憲法9条の規定から来る制約を受けるため「軍隊なのに軍隊ではない」という矛盾を抱えており、その矛盾により現場の活動においては「適応障害」とも言うべき根本的な問題が生じている。 (3)この適応障害の矛盾がゴラン高原を始めこれまでの自衛隊の海外の活動において、さほど表面化してこなかったのは、一つには現場の幹部自衛官が脱法的な行動も含めた柔軟な裁量で対応したことと、もう一つには政府が問題の生じにくい容易な現場のみを慎重に取捨選択してきたことによる。 (4)今後、自衛隊の海外派遣を拡大していくなら早晩、この適応障害の問題が表面化し、深刻な事件や事故がおきかねず、結局そのしわ寄せは現場の自衛官に行ってしまう。 (5)この適応障害の問題を棚上げしたまま、イラク派遣に見られるように「なし崩し的な自衛隊の海外派遣」を継続するのは生産的でない。 (6)また、PKOなど平和構築の現場においては自衛隊などの軍隊の他、文民・NGOも活動するが、その両者の関係、民軍協力(CIMIC)の問題もきわめて重要で難しい面を持っている。
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