今年度は二つの現地調査を行った。一つは、トルコ共和国(イスタンブールおよびアンカラ)にて、EU加盟交渉を開始したトルコ共和国の内政および外政について、もう一つはアメリカ合衆国(ワシントン)にて、アメリカの対黒海地域政策と同地域をめぐるロシアとの関係について調査した。その研究成果は以下の通りである。 トルコの最優先外交目標がEU加盟にあることは言うまでもないが、ルーマニアなどと異なりトルコは多角外交を展開している。NATO加盟国、アメリカとの同盟国でありながら、対中東外交や対黒海・カスピ海外交はもとより、近年ロシアとの関係強化を図ってきた。例えば、ブルーストリーム・ガスパイプラインの建設など経済面だけでなく、トルコはNATO地中海作戦「アクティヴ・エンデヴァー」の黒海への延長を、モントルー条約を盾にロシアと共に阻んできたのである。黒海を自国の内海と見なすトルコは、影響力の温存を図るために、現状維持を外政の柱に据えている。民主化、イスラム、キプロスをめぐる西側諸国との確執や、イラク戦争時のアメリカやトルコとの軋みに加え、EU加盟交渉にまつわる外交上の駆け引き、さらには地政学的要件や地域大国としての国力が、多角外交の促進要因となっている。 他方、アメリカの対黒海政策は、エネルギー問題に9.11以後の対テロ対策が重なって、益々積極性を増している。バラ革命やオレンジ革命の旧ソ連諸国や中東への波及効果を期待してのことである。NDIやIRIは、政党の強化、現地NGOを育成など、積極的な民主化政策や公正な選挙と取りくんできた。また、欧州〜バルカン〜中東〜中央アジアを結ぶ地政学的要因も、アメリカの対黒海政策推進要因となっている。ただ、アメリカは現在対黒海政策を再検討中と言われ、その結果をフォローしていく必要がある。
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