研究課題
コソヴォの独立は、隣国ボスニアのみならず、旧ソ連地域の凍結された紛争地域、さらにはEU加盟を果たしたルーマニアやスロヴァキアのハンガリー人コミュニティーにさえ少なからぬ波紋を投げかけている。それは、これらすべてが国民国家の在り方に関わる課題であるが故に、コソヴォの解決方式が他のケースの先例となるか否かをめぐって、領土保全を主張する国家と高度な自治ないし独立をめざす分離主義勢力との間で緊張が高まるからに他ならない。特に、冷戦後、ボスニアにおいて殺戮しあった三民族を一つの国家に押し込めるなど、民族自決権よりも領土保全に重きを置いてきた冷戦後の欧米国際社会が、そのような一般的趨勢を覆してコソヴォの独立を認めた点は無視しがたい。それ故、ボスニアではセルビア系を中心に独立運動が再燃し、トランスニストリア、南オセチア、アブハジア、ナゴルノ-カラバフの代表者達はモスクワに参集し、独立に向け気勢を上げたのであった。ところが、彼らの動きにその後大きな進展はない。それは、いずれのケースも独立するには不都合な諸条件を抱えていることに加え、ロシアを含む国際社会が、領土保全原則を固持してきたからである。欧米国際社会は、ボスニア国家のセルビア共和国はユーゴ連邦時代コソヴォと違って自治さえ認められていなかったし、民族浄化されたわけでもなく、そもそもデイトン合意が法的地位の変更を認めていないとして、コソヴォを例外的なケースとして扱ってきた。他方、ロシアは、グルジアのNATO加盟を阻止する手段の一つとして、アブハジアや南オセチアの分離主義運動を支援してはいるが、ロシアの最優先利益は、むしろこれら諸地域をグルジアにとどめることで、グルジアの内外政策に自国の影響力を及ぼし続けることにある。
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