本研究は、日本外交政策決定過程における内閣官房の役割を分析するものである。近年、政策決定過程における内閣官房の役割が増大しているが、それは官房長官の地位の向上に象徴的に現れている。森政権から首相の継承順位が定められるようになったが、常に官房長官は1位と定められ、実質的な「副首相」的な役割を占めるようになった。また、首相と巨大な官僚組織をつなぐ要の役割を果たす事務の官房副長官の役割も、2001年の橋本行革の結果著しく増大した。とくに、「人事検討会議」によって各省庁の幹部人事の人事権を内閣官房が得たことは、内閣官房と各省庁の力関係を大きく変えた。また。内閣官房の組織改変によって、副長官補室が発足し、より柔軟的に政策に対応する体制が整うようになってきた。さらに、内閣法の改正によって政策主導権限が内閣官房に付与されることになった。これらの制度的変化のおかげで、2001年以前は内閣官房所管の法律が内閣法と安全保障会議設置法という内閣の組織に関するもの2つだけだったのが、森政権以後8つの法律ができて、内閣官房の所管となっている。これだけでも、内閣官房の役割が強化されていることが分かる。 とくに安全保障の面では、2001年テロ対策特措法、2003年の有事関連法、2003年のイラク特措法、2004年国民保護法などの有事関連法制、など、重要法案が内閣官房の主導で次々と立法化されようになった。これらの政策過程においては、従来のボトムアップの政策過程ではなく、内閣官房が主導権を握ったトップダウン型の政策過程がとられたことは特筆されるべきである。
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