研究準備段階で確立された「新古典派成長論的マルクス・モデル」が導く最終期の最適資本労働比率を越えて資本蓄積が行き過ぎてしまうケースを「過剰蓄積」という概念として整理し、それが発生する条件を細かく調べる作業を本年度は中心的に行なった。具体的には、(1)社会構成員が貯蓄率の決定において合理的な判断能力がない場合、(2)ひとつの社会に異なる時間選好率をもつ複数の集団が存在する場合、(3)ひとつの社会内に時間選好率の格差がなくとも先に豊かとなった階級と後から続いている階級が存在し、その間で資本貸借が行なわれ、かつその貸借による追加的な生産の増分の全てが分析派マルクス主義の意味で前者の階級によって「搾取」される場合にそうした状況の発生することが分かった。また、もし社会がこうした「過剰蓄積」の問題を意識するのであれば、それを阻止するために社会がしうるいくつかの対応がある。(1)と(2)への対応は困難であるが、(3)については理論上から以下のいくつかの対応の可能性が示された。すなわち、国家による所得再分配という社会民主主義的方法、あるいは労働分配率を引き上げようとする労働組合主義的方法、および二階級の所有資本量を強制的に調整するマルクス的方法であるが、我々はさらに資本市場を通じた「先富階級」による売却を付け加えることができる。こうした非強制的方法のありうることを理論的に示せたことは研究の成果である。 なお、以上の成果は論文の形以外にも、国内や国際の会議やセミナーなどでも公表し、一層の研究のための多くの示唆を得た。
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