我々が開発をしている「新古典派成長論的マルクス・モデル」が経済主体の最適化行動、特に無限期間のそれとして設定されているがゆえに「新古典派」としての性格を保持しているが、他方で「マルクス・モデル」としての特徴を持っているのかどうかという問題が存在するが、本年はその問題を中国で発表した論文において明らかとした。具体的には、人類が持つ本源的な生産要素を労働のみとするモデルとそうでないモデルとを構築し、前者の場合のみが、我々のモデルの基本的な帰結を導くことができるということが明らかとなった。ここで「我々のモデルの基本的な特徴」けとするのは、資本蓄積には上限があること、初期資産格差があっても長期の後に基本的には消滅すること、その際には搾取や階級分裂状態も消滅することである。産業革命後の社会が資本という生産要素をより重要とするようになったとしても、マルクスが「労働価値説」を主張したのはその「資本」もが労働の生産物であること、迂回生産のために労働を一旦その形に固定したものにすぎないことによる。したがって、ここで労働を本源的な生産要素とする場合にのみ、我々の帰結が得られるということは、我々のモデルが「労働価値説モデル」であることを示している。 以上の他にも、研究分担者である松尾は、その本源的生産要素が労働以外のものとしては理解不能なことについて、分析的マルクス主義派の批判に反批判する形で研究を進めた。なお、以上の成果は論文の形以外にも、国内学会やメキシコや中国で開催された国際会議などでも公表し、一層の研究のための多くの示唆を得た。
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