研究概要 |
労働市場の理論分析において,企業間または産業間における賃金決定の順番は従来与件として扱われてきた。しかし,現実には,例えば春闘において鉄鋼や自動車などのリーディング産業や大企業が先に賃金相場を形成した後,中小企業が賃金を設定している。本研究では,このような賃金決定の時間差が生じる状況について,企業別組合をもつ企業において報酬制度のみが異なる同質的複占モデルを構築して理論的な分析を進めてきた。 大分や山口での定期的な研究打合わせや,東京,山口,長崎での資料収集を通じて研究を進めた。そして,Hamilton and Slutsky(1990)のObservable Delays Gameを援用して得られた暫定的な結論として,企業が雇用量の決定を裁量的に行なえる状況での労使交渉モデルにおいて、以下のようなことが明らかになった。 (1)Profit-Sharing制度をもつ企業と利潤最大化企業が競争している複占市場では、賃金決定においてProfit-Sharing企業が先行者利益、利潤最大化企業が追随者利益を各々有している。(2)それゆえ、賃金決定の手番が内生的に決定される場合、Profit-Sharing企業が先手に,利潤最大化企業が後手になるシュタッケルベルク均衡のみが現れる。(3)また,Profit-Sharing企業を大企業(先手),利潤最大化企業を中小企業(後手)とみなした場合,正の需要ショックは,大企業(先手)の雇用を安定的にし,中小企業(後手)の雇用をより不安定にする。地方労働市場を分析対象とし,大企業が都市部に存在し,中小企業が地方に存在しているという状況を考慮すれば,この分析結果は,現実に観察される結果と整合的である。 上記(1)(2)(3)の分析結果については査読付学術誌及び大分大学とドイツ・パダボーン大学との地域経済に関する共同研究論文集に投稿中である。
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