アベ・シエースの経済理論の分析をおこなった。シエースに『著作集』、特にシエースの『政治論集』を中心に、革命前夜から革命期のシエースの経済理論を取り出す作業をおこなった。これまで重農主義からの影響を中心に研究されてきたシエースの経済理論は、むしろエコノミストさらにはイギリス経済学の影響を極めて大きく受けていることが明らかとなってきた。本研究のもう一人の中心的対象であるレドレルと同じく、革命以前に、シエースはアダム・スミス『国富論』の経済学の研究をおこない、重農主義ではなく、スミスの経済社会像を政治論の基礎に据えようとしていた。特にスミス分業論はシエースの注意をひいており、彼は、コンドルセとともに、分業論を社会政治論の基本概念に取り入れようとしていた。スミス分業論のフランスへの導入は重農主義者ジェルマン・ギャルニエによってなされたという通説を修正することができると思われる。 本年度は体調不良でシエースについてのパリでの資料収集ができなかったが、シエース経済理論の基本的な分析は終えることができたので、次年度に資料収集により補足研究を追加したい。今年度の分析の限りでもシエースの理論から公共経済学とよぶべき潮流の存在を明らかにできると思われる。次年度はレドレルとコンドルセの分析を加えこの潮流を確定できるようにしたい。
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