ワルラスの応用経済学の形成過程とその構造を思想的アプローチにより解明することにより一般均衡理論の制度的枠組としてのその意義を考察するという、研究目的に関連して、本年度は特に、応用経済学におけるワルラスの自由競争概念をハイエクの視点から再考するというテーマに携わった。まず、ワルラス純粋経済学に由来する新古典派的な競争概念を、ハイエクが社会主義計算論争の後、「設計主義」に結び付けて批判するにあたって、その源泉とした「フランスの伝統」に着目した。そして、ワルラスの純粋経済学ではなく応用経済学における競争概念「組織された自由競争」を、ハイエクの言う「フランスの伝統」-サン・シモン主義やデカルト-に照らして再考すると、ワルラスは設計主義者であるどころか、むしろハイエクの主張に近い部分を持ち合わせており、一般的な新古典派の競争概念とも異なる独自性を持っていることを示した。 その成果は、本年度9月にニースで行なわれた国際ワルラス学会で、Walras's organized free competition from a Hayekian perspectiveというタイトルの論文として発表した。9月のフランス出張ではほかにも、リヨン第2大学ワルラス研究所での資料収集により、ワルラスの応用経済学の形成過程としての18・19世紀フランス経済思想史というテーマの準備にとりかかった。このテーマへの取組は、17年度に継続し、18年度に単行本『フランス経済学史』(昭和堂)として出版予定である。本年度3月のフランス出張では、その資料収集とともに、本書の中心テーマに関するセミナーを次年度9月に、フランスで開催するために、関係者との打合わせも行なった。
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