本研究では、シジウィクの倫理学と経済学の関係、および財政論を中心としたアートとしての経済学を、スミス、ベンサム、ミルと比較しながら考察した。その結果、以下のような成果を得た。 1.『倫理学の諸方法』(1874)において提示された究極的な規範原理、すなわち利己主義の原理と功利主義の原理が『経済学原理』(1883)でも使われていることがわかった。サイエンスとしての経済学は、利己主義を規範原理として行動する「経済人」を仮定して形成されているのに対し、アートとしての経済学は、利己主義と功利主義の両方を規範原理として行動する「普通の人」を仮定して形成されていることがわかった。 2.経済学の基礎になる倫理学におけるシジウィクの人間観は、どのような特徴をもつといえるかを明らかにするために、『道徳感情論』(1759)におけるスミスの人間観を検討した。その結果、行動の規範原理として利己主義の基準と功利主義の基準をもつシジウィクの「普通の人」の概念が、心の中に「賢明さ」と「弱さ」をもつスミスの「普通の人」の概念と類似するものであることがわかった。 3.財政論において、シジウィクは、累進所得税を支持していないこと、そして限界効用逓減の法則や効用の個人間比較を政策基準として採用していないことがわかった。また、シジウィクの財政論をベンサムやミルの財政論と比較することによって、シジウィクが基本的にはミルの税制改革案を継承しながらも、財産の平等よりも財産の安全を重視するベンサムの政治的立場に回帰したという結論を得た。
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