本年度は初年度で、しかも10月に「追加採択」通知をうけたため、本来予定していたイギリスでの資料収集と調査は見送り、もっぱら国内の図書館で行うことになったが、短期間で行った割には、かなりの成果を上げることが出来た。論文にまとめ、現在投稿中であるが、その主張の要点は以下の3点である。 1)生物学史、とくに遺伝生物学と進化生物学を中心とした現代の研究状況をサーヴェイし、ダーウィン革命が、科学者の世界観を最終的に宗教的・哲学的究極原因論からの離脱を宣言するものであったことを再確認した。この分野では、とくに、E.マイアの「総合説」が、ヴェブレンの「進化論的経済学の方法」がダーウィン的であることを立証するものだと分かった。 2)啓蒙主義の時代は確かに「理性の時代」の開始期であるが、同時に生物学革命の時代でもあり、一方で理神論的な世界を準備すると同時に、人間を他の動物や植物と比較し、人間性を比較行動学的に理解し始め、「本能」という捉え方が本格化した時期である、ということが分かった。A.スミスの「本能論」は、このような文脈の上で理解される必要がある。 3)K.ローレンツが打ち立てた「比較行動学ethology」の方法論は、動物の本能にひきつけながら動物の行動を理解し、人間の文化的・制度的発展の可能性に光を当てている点で、モノつくり本能と競争心とを制度進化の説明原理においたヴェブレンのそれと、共通するところが大である。ヴェブレンの本能論は時代遅れだ、と批判してきた行動主義の誤りを訂正する必要がある。
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