研究概要 |
本研究の目的は,経済パネル・データに関連した実証分析を行うためのベイズ統計学の手法を開発することである.パネル・データに関しては,従来,標本理論的立場からの研究が中心であり,ベイズ統計学の立場からの研究は少ない.しかし,ベイズ統計学はデータ生成に関する様々な事前情報をモデルに組み込むことができるため,パネル・データの分析に際して大変有用な道具となると考える. 平成17年度は,昨年度に作成したゼロ支出問題を考慮したエンゲル関数体系の推定問題の論文を改訂するとともに,ベイズ法による擬似パネルモデルの推定方法に関する研究を行った. ベイズ法による擬似パネルモデルの推定では,Hausman and Taylor (1981,Economertrica)の静学的パネルモデルを静学的コーホートモデルとして再定義し,これにデータ生成過程を加えることで,擬似パネルモデルを作った.また,パラメータの事前情報を加え,マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法によるベイズ推定の方法を提案した.更に,静学モデルを一般的な動学モデルに拡張し,MCMC法によるベイズ推定の方法を考察した.考案したベイズモデルの特徴は,従来の標本理論に基づく擬似パネルモデルの多くの推定方法において必要とした操作変数を必要としない点である.また,適当な操作変数が存在する場合には,その情報も取り入れて推定を行うことも可能となる.現在,理論的分析が終了し,シミュレーションによる数値実験を行っているところであり,実験終了後,論文の形にまとめ,専門誌に投稿する予定である.
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