研究概要 |
本研究の目的は,経済パネル・データに関連した実証分析を行うためのベイズ統計学の手法を開発することである.パネル・データに関しては,従来,標本理論的立場からの研究が中心であり,ベイズ統計学の立場からの研究は少ない.しかし,ベイズ統計学はデータ生成に関する様々な事前情報をモデルに組み込むことができるため,パネル・データの分析に際して大変有用な道具となると考える. 平成18年度は,平成16年度と平成17年度に作成したゼロ支出問題を考慮したエンゲル関数モデルを需要体系モデルに拡張した.本研究で取り扱った需要体系モデルはDeaton and Muellbauer(1980,American Economic Review)によるAlmost Ideal Demand System (AI需要モデル)である.ゼロ支出を考慮して支出データの生成過程を構築するとともに,パラメータの事前情報を加えてAI需要モデルをマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法によって推定するベイズ法を提案した. さらに,計量経済学の手法は実際の経済データに適用してこそその有用性が明らかになるという考えから,本研究では,財団法人家計経済研究所が実施した「消費生活に関するパネル調査」の個票データを用いて,ゼロ支出を考慮したAI需要モデルの推定を行った.また,ベイズ法を用いることで本来データとして観測されない総消費が推定の過程で利用可能となるので,総消費に基づく不平等度の計測結果も併せて提示した.このようなゼロ支出を考慮した需要体系モデルの推定は既存の実証研究にはなく,その意味で,本研究は従来の研究に新しい方向性を提示したといえる. なお,現在,以上の結果を論文の形にまとめ,海外の専門誌に投稿する予定である.
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