本研究は、Hick-Moorsteen生産性指数の要因分解法を新たに開発し、その適用により90年代以降の日本経済の生産性低下の原因を解明することである。16年度中にHicks-Moorsteen生産性指数の要因分解に関する理論的問題はすべて解決した。この結果、生産性変化率を技術進歩要因、効率性要因、規模要因、投入産出混合要因に分解することが可能となった。この方法は、最大効率規模(most productive scale size)が存在しない技術条件(たとえば大域的収穫逓減あるいは大域的収穫逓増)の下でも適用可能と言う点で、従来のMalmquist生産性指数の要因分解法よりも優れている。この方法を実データに適用するためには、距離関数の値を評価する必要がある。それを行うには、フロンティア関数モデルを計量経済学的に推定するか、あるいはデータ包絡分析(DEA)のどちらかを用いる。応用研究としては、まずDEAを用いる方法により、わが国9電力会社送電部門の1980年から2001年までのパネルデータ、および1981年から1998年までの日本経済の各部門時系列データ(マクロ、非サービス業全体、サービス業全体、自動車、一般機械、電気機械、金融、土木、電力、電気通信)を使い、Hicks-Moorsteen生産性指数の要因分解を行った。同時に、フロンティア関数を推定する方法により、日本を含むOECD17カ国の1965年から1990年までのパネルデータ、およびわが国47都道府県の1980年から2000年までのパネルデータによっても、要因分解を行っている。その結果によれば、わが国の90年代の生産性低下は技術進歩要因の停滞が主な理由である。この間、効率要因の改善は生産性を上昇させているが一時的な効果にとどまっている。また90年末には技術進歩要因の回復も認められる。
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