パネル・カウントデータをもちいた実証分折の場合、そのモデルの構造によってはモデルのパラメークの一致推定量を得ることができない場合がある。また推定法に関して分布を特定化しないモーメント法ベースの推定法と最尤法とでは最尤法ベースの推定法の方が効率的であることが知られている。ただし最尤法の場合、特定化した分布がデータのそれと大きく離れていないことが前提となる。これは通常の連続変量のデータを対象にした際にも生じることであるが、カウントデータの場合、その統計的モデリングの基礎にはボアソン分布などの特定の確率分布を仮定する。推定は最尤法によるか、あるいは尤度最大化の条件に相当する制約式だけを仮定したモーメント法ベースの推定法が一般的である。しかしながらモデルが動学的である場合、最尤法による推定は、極度に複雑な関数の最大化問題に直面することになり、多くの研究ではモーメント法ベースの推定法を適用している。他方、既に先行研究においてモーメント法べ一スの推定は尤度べ一スの推定に比べて効率的でないことが明らかになっている。それら先行研究でのモデルは動学的なものではないものの、動学モデルの推定においても同様な性質を共有していることが期待される。本研究課題のもと、パネル・カウントデータをもちいた動学モデルの推定を考察した結果、尤度はボアソン確率変数と二項確率変数のたたみこみによって得られる確率分布によって表現され、その複雑さゆえに解析的な推定量を導くことは困難であることがわかった。また数植解法により推定は可能であるが、incidentalパラメータ問題に直面していることからその推定量の漸近特性に関しては検討が必要であることが判明した。
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