本研究においては、国際的要素移動が国内の労働市場に及ぼす効果について、主に二つの点に注目し研究を行った。まず、合法的および非合法的な国際的労働移動(移民)について、失業の可能性を考慮し、不法移民の取締りを強化したとき経済にどのような影響を及ぼすかについて分析を行った。 つぎに、途上国における失業の問題を、先進国内の産業部門間の労働移動と失業に応用し研究を行った。たとえば、途上国において、インフォーマル・セクターと呼ばれている部門は、先進国においても広範に存在するパート・タイム労働者やフリーターとみなすことができ、農村農業部門は産業にかかわらず雇用は保証されるが低賃金などにより魅力のない部門と置き換えられる。さらに、途上国でいうところの都市工業部門は、若者が失業のリスクを犯しても将来就職したいと思う部門と看做される。このような観点から、本研究では従来の研究成果を十分に活用することにより、先進国の若年非熟練労働者層の失業問題を、国際貿易と国際的要素移動の枠組みの中で分析を行った。さらに、若年層を中心とする非熟練労働と中高年を中心とする熟練労働の区別、またわが国の若年層の失業の特殊性、つまり、半ば自発的でありそしてそのことは両親等からの所得移転に大きく依存していることに注目して、失業の減少と経済厚生の向上を図るための諸政策の有効性を検討した。その結果、熟練・非熟練労働の流入はそれぞれの失業を増加させるものの、非熟練労働の流入は熟練労働の失業を減少させ得るなど興味深い結果が得られている。国際労働移動と国内労働市場の関係を貿易理論を応用して考察するという一応の目的は達成されたと考えられる。
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