研究概要 |
本年度の研究では,以下の「11.研究発表」で記した4編の研究論文を執筆した. まず,近年先進国と途上国間で,先進国企業のもつ知財権の消尽論との関係で論争となる並行輸入を扱った. 第1論文では,Brander-Spencer(1985)タイプの2輸出国で各国には1企業ずつの企業が生産活動をしている1輸入国から成る3国間国際貿易モデルを考え,先進国企業xがある財の生産技術に関して先進国で特許権を所有する一方,途上国企業はこれをもたない状況で,ライセンス契約と途上国内での消尽,および途上国企業の特許権侵害とそれに対する先進国企業の訴訟を明示的に組み込んだ4段階ゲームモデルを提案した.このゲームには,ある条件下で8つのタイプの部分ゲーム完全均衡が存在することを示した. 第2論文では,医薬品の貿易取引のある二国の市場に需要の価格弾力性の違い及び外国政府の輸入価格への介入に基づく価格差別が存在するとき,並行輸入が製薬会社の研究開発投資に及ぼす影響にっいて考察した.そして,知的財産制度の変更を通じ並行輸入が認められたとしても,外国政府の価格交渉力が強く,外国の市場の価格弾力性が小さいとき,並行輸入が製薬会社の研究開発投資を促進し,並行輸入を禁止したときよりも外国の消費者余剰を改善することを示した. また,第3,4論文では同質財市場で競争する2企業の特許保有状況ごとに,互いに完全補完的な2技術で特許権の片務的,双務的実施契約締結の可能性を考え,特許侵害によるスピルオーバー,模倣費用,侵害訴訟,知的財産権の行使を表すパラメータなどを明示的にモデルに組み込み,知的財産権の行使が市場均衡での経済厚生に及ぼす影響を分析した.その結果,知的財産権行使保護の程度が強い(模倣費用が大きい)ほど,片務的実施契約は結ばれず(結ばれ),経済厚生上望ましくない独占(望ましい複占)均衡が生じることを示した.
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