規制緩和の流れの下で、市場原理の活用では対応困難な過疎地域の移動ニーズにどのように応えていくかは交通運輸分野での大きな課題である。過疎地域住民の生活様式と移動ニーズに対応した移動のナショナルミニマムを効率的に確保することは地域生活にとってますます重要となってきている。ここでは、国内事例として、過疎が進行し、過疎バス対策も比較的に進んでいる高知県下の3町村の取り組みについて分析し、また、スウェーデン、スイスにおける移動のナショナルミニマムの考え方とそのレベルアップの取り組み実態について検討することによって、より国際的な視野のもとに過疎地域におけるより普遍的な移動保障のあり方を明らかにした。 具体的には、主に次の3点の検討を行う。 1.各自治体は、地域のそれぞれの実情をふまえ、法的・財政的枠組みの中で移動手段の組み合わせによる住民満足度の高い効率的運行パターンをどのようにして実現してきているか、検討を行う。 2.効率的な運行を実現し、改善していくための主体(自治体、住民、事業者)と財政・負担のあり方について検討を行う。 3.我が国の特殊性を明らかにし、過疎バス運行システムに関するより普遍的な考え方と傾向を明らかにするため、EU内での事例を紹介しながら、比較検討を進める その結果、移動のミニマムについては、朝、診療所等に行き、昼自宅に帰ると行った形での一往復が物理的なミニマムで、朝、昼、夕刻の運行が一般的なミニマムと考えられている。交通手段の組み合わせによる住民満足度の高い効率的運行パターンの具体化方法は国、地域によって異なるが、総じて、路線バスとスクールバスを中心とする複数の移動手段の連携と、様々な移動ニーズの路線バスへの統合といった方法があり、それらにおいて低料金あるいは乗車無料といった方向性が見られる。我が国の場合、いわゆる縦割り行政の下でこうした取り組みがダイナミックには取り組まれにくいといった事情もあるが、財政負担を伴う低(無料)料金での運行については、その効率性の確保と住民の支持が不可欠であると考えられることが明らかとなった。
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